妊娠中と産後の髪のメカニズムと対処法【後編】
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妊娠・出産時と産後では、女性の体は大きく変わります。そこには女性ホルモンの関与があるのです。内科医の桐村里紗先生に、ホルモンの変化によって変わる髪の状態やそのケア方法について聞きました。
内科医・認定産業医。tenrai株式会社代表取締役医師。
桐村里紗 先生
予防を重視し、分子整合栄養医学や食によるケアでのアドバイスが専門で、テレビや講演などで活躍。著書に『腸と森の「土」を育てる』(光文社新書)が話題に。
出産によって変わるホルモンと髪の状態
出産すると、エストロゲンの分泌量もプロゲステロンの分泌量もがくんと下がってしまいます。それら女性ホルモンの分泌が抑制される代わりに、男性ホルモン優位になって、月経がしばらく起こらない期間が続きます。
出産後、すぐに月経が起こる人もいれば、なかなか戻らない方もいますが、通常は、産後2か月から半年ぐらいで月経が始まります。
しかし、月経がない間(=男性ホルモンが優位な期間)は、薄毛に悩む方が多いのです。
出産後の脱毛は「産後脱毛症」「分娩後脱毛症」と呼ばれますが、人によっては男性型脱毛のように、額の部分の生え際がM字になってきて、頭頂部が薄くなることがあります。
基本的にはホルモン分泌が整うことで治まりますが、高齢出産で予備力がなかったり、それまでの生活習慣が乱れていたなど、もともとのポテンシャルの悪さで、なかなか月経が戻らない場合もあります。また、月経は戻っても、薄毛がそのまま進行していく人もいます。
高齢出産だからといって、誰でも薄毛になるわけではありません。しかし、女性は更年期に近づくと女性ホルモンの一つであるエストロゲンが減少してきます。このエストロゲンは、髪の毛の成長を促したり、髪の毛の成長期を長く保つものですから、高齢出産の方は、自ずとエストロゲンの分泌量が減っているため、それに出産が重なって薄毛になりやすいともいえます。
もしも更年期でもないのに髪の毛が元に戻らないなどの悩みは、婦人科の医師に相談してください。女性ホルモンが原因であれば、女性ホルモンのバランスが整うことで改善するはずです。
分泌系の問題はないのに、どうしても薄毛が元に戻らないなら、女性の薄毛治療をおこなっている皮膚科などのホームページを探して、相談してみるとよいでしょう。
産後、髪のために大切なこと
男性ホルモンが優位になる産後は、皮脂分泌量が多い状態になります。放っておくと脂漏性湿疹になり、フケ症の原因になってしまいます。毛髪の中には、皮脂が好きなマラセチアというカビがいますので、皮脂の分泌が多いとマラセチアも増えて、それが炎症を起こし、脂漏性湿疹になりやすいのです。
シャンプーの時は、毛穴をきれいに洗うようにしてください。また、シャンプーやトリートメントの洗い流しが不十分だと毛穴がふさがり、薄毛を招いてしまうこともあります。
赤ちゃんのお世話などで、なかなか自分のことには時間が割きにくいかもしれませんが、適切にシャンプーをすることは大切です。シャンプーをするときは、頭皮マッサージも加えて、頭皮の血流を促すことも忘れないでください。
そのほかに、睡眠不足も薄毛や抜け毛を招きます。育児中は寝不足になりがちですが、成長ホルモンを分泌させ、さまざまなホルモンの乱れを整えるために、質の良い睡眠を取るようにしてください。
喫煙や紫外線によるダメージ、ポニーテールなどで髪の毛を引っ張りすぎる、髪の毛のエクステをつけ続けるなども、この時期は特にNGです。
産後、髪のために食べたいもの
出産後、積極的に食べた方がいい栄養素は、妊娠中とほぼ同じです。ここでは、それらを具体的にみていきましょう。
髪の毛の成分はたんぱく質ですから、肉や魚、大豆製品などをしっかり摂ることが大事です。特に大豆製品には、女性ホルモンに似た働きをする栄養素が含まれるため、体内のエストロゲン量が減っている産後は、どんどん食べることをお勧めします。
また、髪の成長に大切なミネラルが多く含まれている食材は、牡蠣・ホタテ・レバー・卵・ウナギ・納豆・あさり・しじみ・ほうれん草・小松菜・アーモンド・海藻類などがあります。
ビタミンB群としては、肉・青魚・牡蠣・あさり・しじみ・はまぐり・大豆製品・卵・チーズ・ナッツ類・玄米・バナナ・モロヘイヤなどの緑黄色野菜です。
抗酸化作用のあるビタミンCやビタミンEも、紫外線から頭皮を守ったり、全身の血行を良くするなどで、毛髪育成に貢献します。
ビタミンCが含まれる主な食材としては、ブロッコリーやピーマン、菜の花などの緑黄色野菜・キウイフルーツ、いちご、レモン、オレンジなどのフルーツ、じゃがいもなど。
ビタミンEが含まれる主な食材としては、ウナギ・たらこ・ナッツ類・ごま油や米油、アボカドなどがあります。
これらを摂り入れながら、バランスの良い食事を心がけるようにしましょう。
授乳中のホルモンの変化と、髪のためにしたいこと
出産後、プロゲステロンの働きが弱まると、母乳を作るために欠かせない母性ホルモン「プロラクチン」が分泌されるようになります。そして、その母乳を分泌させるのが、幸せホルモン「オキシトシン」です。
髪の毛の成長を促す作用もあったプロゲステロンの働きが弱まり、この2つのホルモンが主要な働きをするようになったことで、髪の毛の量も減りやすくなります。授乳中に薄毛になった方は、赤ちゃんに栄養を渡していると思って、もう少しだけガマンしてください。女性ホルモンが通常に戻れば、髪の質や量も戻るはずですから。
また、赤ちゃんを産んだ後で元の体重に戻りたいと、急激なダイエットをする方がいますが、栄養不足は、抜け毛の髪の毛の大きな要因です。体重だけ減ってスリムになれたと喜んでも、毛髪は薄くなったりツヤがなくなったり、いつまでも悩むことになります。
ダイエットをするなら、バランスの良い食事を心がけながら、運動で代謝を上げていくことが、髪も美しく、体も健康に保てる近道です。
ダイエットだけでなく、偏食による栄養不足も問題です。ある一定のものばかり食べたり、ビタミンやミネラルなど、微量分子のバランスの崩れるようなダイエットは、さらにホルモン分泌を乱すことにもなります。
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